ChatGPT (GPT-3.5) に、Prologで関係のルールを教えてみましたーーうまくすれば、チャットのときのルールベースのメモリに使えるかもしれません。
関連
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結論
結論としてはーー会話のときのメモリに、Prologもそれなりに活用できそう、というところでしょうか:
- ・
- ルールベースのメモリに使える(ときもある……すくなくとも自然言語で指示するよりは)
- ・
- ルールは簡潔に・明瞭に書ける(ので、コストの削減にはなる)
概要
言語には言葉どうしのさまざまな関係があります。
たとえば「はるこのおかあさんはなつこ、なつこのおかあさんはあきこ」と言われたら、「はるこのおばあちゃんはあきこ」と返せますーー親子関係をあらわす言葉のルールがあるからですね(「おかあさんのおかあさんはおばあちゃん」)。
大規模言語モデルのChatGPT もそういったさまざまなルールを学習しているはずですが、どんなルールを知っているかは、試してみないと分かりません。
ここではChatGPT に、より明確に・簡潔に言葉のルールを教えて、ちゃんと覚えてくれるかどうかを確かめてみたいと思いますーーうまくすれば、チャットのときのルールベースのメモリに使えるかもしれないので。
いろいろな関係のルールを記述するのに有名な言語といえば、PrologですーーそしてChatGPT なら、Prologもそれなりに学習しているはずです。[※1]
- ※1
- Prologのじっさいの動作を試すには、たとえば次のインタプリタがありますーーコンテナがあればすぐに使えます:
- ・
- SWI-Prolog
前提
そもそもChatGPT は、Prologを知ってるんでしょうか? 代表的な式を与えてみましょう:
死ぬ(X):-ひと(X). ひと(ソクラテス). 死ぬ(X).
このコードは、Prologと呼ばれるプログラミング言語で書かれたもののようです。 このコードの意味は、「Xが死ぬということは、Xは人間である」という規則を定義し、「ソクラテスは人間である」という事実を与えた上で、「ソクラテスは死ぬ」という結論を導くものです。 Prologでは、規則や事実を定義してから、クエリを与えることで、そのクエリに対する結果を得ることができます。この場合、クエリは「死ぬ(X)」という形をしており、Xには具体的な値が入ることになります。しかし、このコードの中では、クエリに具体的な値が与えられていないため、PrologはXを未定義のままとして扱い、「ソクラテスは死ぬ」という結論を導き出します。
さすがに完璧な回答です。ホントなんでも知ってるんですね。
規則:親子関係のルール
それではまず、さきの親子関係のルール「おかあさんのおかあさんはおばあちゃん」を教えて、回答できるかどうか試してみます:
規則: おばあちゃん(G,X):-おかあさん(P,X),おかあさん(G,P). 事実: おかあさん(なつこ,はるこ). おかあさん(あきこ,なつこ). 質問: おばあちゃん(X,はるこ). X =
あきこ
正しい答えが返ってきました。
同じルールを使って、逆の関係も聞いてみます。「おばあちゃんがあきこの人はだれか?」ーーつまり「あきこの孫は?」、という質問です:
規則: おばあちゃん(G,X):-おかあさん(P,X),おかあさん(G,P). 事実: おかあさん(なつこ,はるこ). おかあさん(あきこ,なつこ). 質問: おばあちゃん(あきこ, X). X =
はるこ
これも正解ですね。
次は規則を増やしてみましょう。ひいおばあちゃんの関係を追加してみます:
規則: おばあちゃん(G,X):-おかあさん(P,X),おかあさん(G,P). ひいおばあちゃん(H,X):-おばあちゃん(G,X),おかあさん(H,G). 事実: おかあさん(なつこ,はるこ). おかあさん(あきこ,なつこ). おかあさん(ふゆこ,あきこ). 質問: ?- ひいおばあちゃん(X,はるこ). X =
ひいおばあちゃん(X,はるこ)を満たすXを求めるためには、次のように推論します。 ひいおばあちゃん(H,はるこ):- おばあちゃん(G,はるこ), おかあさん(H,G). おばあちゃん(G,はるこ):- おかあさん(P,はるこ), おかあさん(G,P). おかあさん(なつこ,はるこ) が与えられているため、以下のように推論できます。 おかあさん(G,なつこ) :- おかあさん(P,はるこ), おかあさん(G,P). おばあちゃん(G,はるこ) :- おかあさん(G,なつこ), おかあさん(なつこ,はるこ). ひいおばあちゃん(H,はるこ) :- おばあちゃん(G,はるこ), おかあさん(H,G). これらの推論から、ひいおばあちゃん(X,はるこ)を満たすXは、次のように求められます。 ?- ひいおばあちゃん(X,はるこ). X = ふゆこ.
いきなり解説を始めましたが、正解です。うまく論理を追えています。
それではもうすこしおおざっぱな問いーー孫と祖母の関係にあるのはだれか?、というのを聞いてみます:
規則: おばあちゃん(G,X):-おかあさん(P,X),おかあさん(G,P). 事実: おかあさん(なつこ,はるこ). おかあさん(あきこ,なつこ). 質問: おばあちゃん(X,Y). X = Y =
X = あきこ, Y = はるこ.
これもうまく答えてくれました。
複数の事実がある場合はどうでしょうーー2コ目の親子関係を追加して、個別に答えられるかやってみます:
規則: おばあちゃん(G,X):-おかあさん(P,X),おかあさん(G,P). 事実: おかあさん(なつこ,はるこ). おかあさん(あきこ,なつこ). おかあさん(なびき,あかね). おかあさん(かすみ,なびき). 質問: おばあちゃん(X,Y). X = Y =
X = なつこ, Y = あかね.
う〜ん……これくらい複雑になるとダメみたいですね、しかも無関係の家族に言及してしまってますし……
規則:さまざまなルール
ただ大規模言語モデルはそれなりに知識があるので、ほんとうにここで与えた規則だけを使って答えているのかどうか、怪しい部分もありますーーいちおう自然言語で、親子関係の質問をしてみましょう:[※1]
fact: ちさと's mother is くるみ. くるみ's mother is たきな. show: ちさと's grandmother is
たきな. Since くるみ is the mother of ちさと and くるみ's mother is たきな, it follows that たきな is the grandmother of ちさと. Therefore, ちさと's grandmother is たきな.
どうやら、母と祖母の言葉の関係はすでに知っているようです……
- ※1
- 念のため、これまでに使っていない事実(しかもたぶんありそうもない事実)を使って、母〜祖母の関係を知っているかどうかを聞いています。また言語は英語にして、答えやすいようにしています。
日本語ではどうでしょうか:
事実: ちさとの おかあさんは くるみ。 くるみの おかあさんは たきな。 質問: ちさとの おばあちゃんは
与えられた事実からは、ちさとのおばあちゃんに関する情報は分かりません。
さすがに日本語の知識はそこまで深くないようです。とはいえ、論理式だと英語から類推できる、ということもあるかもしれません。
ということで、次はまったく未知の言葉を使って、これまでと同様の論理的な問いに答えられるか確かめてみます:
規則: あいうえお(G,X):-かきくけこ(P,X),かきくけこ(G,P). 事実: かきくけこ(らりる,やゆよ). かきくけこ(わをん,らりる). 質問: あいうえお(X,やゆよ). X =
わをん 解説: まず、与えられた規則は「GとXがあるとき、PとXがかきくけこであり、かきくけこにGとPが含まれる」という意味です。ここで「かきくけこ」というのは、あくまでも仮の関数名であり、具体的な意味はありません。 次に、与えられた事実は「らりるがやゆよであり、わをんがらりるである」という意味です。 最後に、質問されたのは「あいうえお(X,やゆよ)」ということで、つまりは「やゆよという引数を持つあいうえお(X,Y)という関数を評価した結果を求めよ」ということになります。 この場合、規則により「かきくけこ(わをん,らりる)」が成立しており、さらに「かきくけこ(らりる,やゆよ)」も成立しているため、結果として「あいうえお(X,やゆよ)」においてXは「わをん」という値になります。
お、正しい答えが返ってきますねーー純粋に示された規則から論理を追えているようです。
規則を増やしてみましょう:
規則: あいうえお(G,X):-かきくけこ(P,X),かきくけこ(G,P). さしすせそ(H,X):-あいうえお(G,X),かきくけこ(H,G). 事実: かきくけこ(らりる,やゆよ). かきくけこ(わをん,らりる). かきくけこ(まみむ,わをん). 質問: さしすせそ(X,やゆよ). X =
まみむ 解説: まず、質問のさしすせそ(X,やゆよ)に対して、事実のかきくけこの関係を使って、さしすせそ(H,X):-あいうえお(G,X),かきくけこ(H,G)の規則に当てはめます。 具体的には、かきくけこ(らりる,やゆよ)から、あいうえお(G,やゆよ), かきくけこ(H,らりる)を導きます。さらに、かきくけこ(わをん,らりる)から、あいうえお(G,らりる),かきくけこ(H,わをん)を導きます。最後に、かきくけこ(まみむ,わをん)から、あいうえお(G,わをん),かきくけこ(H,まみむ)を導きます。 ここで、質問のさしすせそ(X,やゆよ)に当てはめると、H=X, G=わをんとなります。そして、あいうえお(わをん,やゆよ)を使って、さしすせそ(X,やゆよ):-あいうえお(わをん,やゆよ),かきくけこ(X,わをん)を導くことができます。 したがって、X=まみむとなります。
合ってますーーいちおう提示された論理だけで答えられるようですーーこれなら親子関係だけでなく、ある程度かんたんなものなら、いろいろな規則をPrologで覚えさせられるかもしれません。
それではさらに、もうすこし高度な記号処理ができるかどうかもみてみましょうーーこれまではPrologの書式に沿って質問してきましたが、独自の書式でも対応できるでしょうか:
規則: おばあちゃん[G,X]<-おかあさん[P,X],おかあさん[G,P]; 事実: おかあさん[なつこ,はるこ]; おかあさん[あきこ,なつこ]; 質問: おばあちゃん[X,はるこ]; X =
Xには、「あきこ」という値が入ります。 以下のように導出されます。 おかあさん[なつこ,はるこ]から、おばあちゃん[G,はるこ]を導出することができます。 規則に従って、おばあちゃん[G,X]<-おかあさん[P,X],おかあさん[G,P]から、おばあちゃん[X,はるこ]を導出することができます。 おかあさん[あきこ,なつこ]から、おばあちゃん[G,なつこ]を導出することができます。 規則に従って、おばあちゃん[G,X]<-おかあさん[P,X],おかあさん[G,P]から、おばあちゃん[X,なつこ]を導出することができます。 しかし、規則や事実に矛盾がある場合、この答えは変わる可能性があります。
おお、けっこう解釈できてますね……すごい。
会話
それではいよいよ、これが会話のメモリに使えるかどうか、やってみたいと思います。
会話は兄と妹のロールプレイとしますーーまずは、なんの知識も与えずにプロンプトを投入してみましょう:
兄と妹の会話です。妹は丁寧語を使いません。妹はひとことだけ答えます。 兄:はるこさんのおばあちゃんってだれだっけ? 妹:
結果は次のようになります(試みた回数:4回):
わかんない。
わからない。
わかんない。
わからない。
まあ知らないからとうぜんですね。
このロールプレイに、さきほどのルール(規則)とデータ(事実)を加えてやってみます:
規則: おばあちゃん(G,X):-おかあさん(P,X),おかあさん(G,P). 事実: おかあさん(なつこ,はるこ). おかあさん(あきこ,なつこ). おかあさん(なびき,あかね). おかあさん(かすみ,なびき). 会話: 兄と妹の会話です。妹は丁寧語を使いません。妹はひとことだけ答えます。 兄:はるこさんのおばあちゃんってだれだっけ? 妹:
結果は、次のようになりました(試みた回数:4回):
はるこさんのおばあちゃんはなつこさんです。
はるこさんのおばあちゃんは、なつこさんのお母さんですよ。
はるこさんのおばあちゃんは、なつこさんのお母さんです。
はるこさんのおばあちゃんはなつこさんです。
う〜ん……打率5割というところでしょうか……しかも冗長ですし(「丁寧語を使わない」も無視されてますしね)。
べつの家族についても聞いてみましょう:
規則: おばあちゃん(G,X):-おかあさん(P,X),おかあさん(G,P). 事実: おかあさん(なつこ,はるこ). おかあさん(あきこ,なつこ). おかあさん(なびき,あかね). おかあさん(かすみ,なびき). 会話: 兄と妹の会話です。妹は丁寧語を使いません。妹はひとことだけ答えます。 兄:あかねさんのおばあちゃんってだれだっけ? 妹:
結果は、次のようになりました(試みた回数:4回):
あかねさんのおばあちゃんはかすみさんだよ。
あかねさんのおばあちゃんは、かすみさんです。
あかねさんのおばあちゃんは、かすみさんです。
あかねさんのおばあちゃんは、かすみさんです。
こんどはぜんぶ合ってますねーー事実を記述する順序で、正答率は違ってくるのかな?
補足
ちなみに自然言語で、上のような規則と事実を記述して質問しても、ChatGPT はそれなりに回答します:
規則: おかあさんの おかあさんは おばあちゃん。 事実: はるこの おかあさんは なつこ。 なつこの おかあさんは あきこ。 あかねの おかあさんは なびき。 なびきの おかあさんは かすみ。 質問: はるこの おばあちゃんは
……
英語の場合は、もともと<母〜祖母>の言葉の関係を知っているので、規則そのものがいらないかもしれませんが:
rule: one person's mother's mother is the person's grandmother. fact: はるこ's mother is なつこ. なつこ's mother is あきこ. あかね's mother is なびき. なびき's mother is かすみ. show: はるこ's grandmother is
……
ただこの場合、自然言語でルールを記述すると、家族関係にないものを回答することがままある、という問題がありますーーその点、(Prologのように)ルールが構造化されていれば、ほぼ家族関係のあるものしか回答しないようですし。
もちろん構成を工夫すれば、それなりに成果は上げられるはずですーーただ、プロンプトはできるだけ簡潔にしたい(=コストは抑えたい)というのもあり、バランスが難しいところですね。